2024年3月28日木曜日

鍼灸溯洄集 62

   卷下・七オモテ(739頁)

 (8)鼻[ビ]

鼻塞聲重流涕者肺感風寒也

  【訓み下し】

鼻塞がり聲重く流涕する者は,肺 風寒に感ず。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・鼻病:「鼻塞聲重流涕者,肺感風寒也」。


○不聞香臭者肺經有風熱也

  【訓み下し】

○香臭を聞かずは,肺經に風熱有るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・鼻病:「鼻不聞香臭者,肺經有風熱也」。


○鼻淵者膽移熱於腦也

  【訓み下し】

○鼻淵は,膽 熱を腦に移す。

  【注釋】

 ○鼻淵:指鼻腔時流濁涕的病證。俗名腦漏。

 ◉『指南』病名彙考・鼻淵:「濁涕[ススバナ]多く出(いで)て止まらざるなり。氣厥論に出たり」。/すすばな:たれさがる鼻水。また、それをすすりこむようにすること。はなすすり。すすりばな。

 ◉『素問』氣厥論:「膽移熱於腦,則辛頞鼻淵。鼻淵者,濁涕下不止也」。

 ◉『病名彙解』:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/356?ln=ja

 ◉『萬病回春』卷5・鼻病:「鼻淵者,膽移熱於腦也」。


○鼻赤肺之血熱也

  【訓み下し】

○鼻赤く,肺の血熱なり。

  【注釋】

 ★鼻赤:「鼻赤きは」と訓んだ方が,わかりやすい。

 ◉『萬病回春』卷5・鼻病:「鼻赤者,熱血入肺,成酒齄鼻也」。

 ★酒齄鼻:古稱鼻赤,又名鼻齇、酒齇鼻、肺風瘡、肺風粉刺、赤鼻、鼻準紅赤。指鼻準發紅,久則呈紫黑色,甚者可延及鼻翼,皮膚變厚,鼻頭增大,表面隆起,高低不平,狀如贅疣的疾病。多由脾胃濕熱上熏於肺,血瘀凝結所致。


○鼻臭涕出曲差[神庭旁一寸半入髮際]上星[入前髮際一寸陷中]淺刺

  【訓み下し】

○鼻臭く涕(はなじる)出づるは,曲差[神庭の旁ら一寸半,髮際に入る]・上星[前髮際に入る一寸の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・鼻口:「腦瀉鼻中臭涕出,曲差上星治有功」。


  卷下・七ウラ(740頁)

○鼻塞不利厲兌[足大指次指端去爪甲角]前谷[手小指外側本節前]臨泣[足小指次指本節後間陷]淺刺

  【訓み下し】

○鼻塞がり利せず,厲兌[足の大指の次の指の端(はし),爪の甲の角(かど)を去る]・前谷[手の小指の外の側(かたわら),本節(もとふし)の前]・臨泣[足の小指の次の指,本節(もとふし)後間(こうかん)の陷]淺く刺す。

  【注釋】

 ★臨泣:足の臨泣穴には鼻に関する主治の記載が見られないので,頭の臨泣穴の誤りであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・鼻口:「鼻塞上星臨泣燒,百會前谷厲兌高,通前通後共七穴,兼治合谷迎香焦」。

 ◉『神應經』鼻口部:「鼻塞:上星 臨泣 百會 前谷 厲兌 合谷 迎香」。

 ◉『鍼灸聚英』足少陽膽經・(頭)臨泣:「主,……惡寒鼻塞……」。

 ◉『鍼灸聚英』足少陽膽經・(足)臨泣に鼻関連の主治なし。


○鼻塞不聞香臭迎香[鼻孔旁五分]合谷[手大指次指岐骨間]淺刺

  【訓み下し】

○鼻塞がり香臭を聞かず,迎香(げいきょう)[鼻孔の旁ら五分]・合谷[手の大指の次指の岐骨(ちまたほね)の間]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『醫學入門』附雜病穴法:「鼻塞不聞香臭,鍼迎香、合谷」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・鼻口:「鼻塞上星臨泣燒,百會前谷厲兌高,通前通後共七穴,兼治合谷迎香焦」。

 ◉『鍼灸聚英』迎香:「主鼻塞不聞香臭……」。


○鼻痔流濁涕者大衝[足大指本節後二寸]合谷淺刺瀉

  【訓み下し】

○鼻痔,濁涕を流す者,大衝[足の大指の本節(もとふし)の後二寸]・合谷,淺く刺して瀉す。

  【注釋】

 ○鼻痔:鼻息肉[nasal polyp],病名。系指鼻中贅生肉瘤,閉塞孔竅,氣不宣通的病證。又名鼻痔、鼻瘜、鼻中息肉等。所謂息肉,有兩種解釋。『說文解字』:「息者,身外生之也」。這是認為鼻中贅生乃身外之物。『聖濟總錄』:「附著鼻間,生若贅瘡,有害於息,故名息肉」。

 ◉『病名彙解』:「『入門』に云,〈肺氣熱極,日久して凝濁,結して瘜肉をなし,棗(なつめ)の如く,鼻瓮[ハナノアナ]を滯塞すること甚しきものは,又鼻齆と名く〉。○按るに,是俗に云ハナタケなるべし。瘜肉のことにあらじ」。

 ◉『醫學入門』附雜病穴法:「鼻塞鼻痔及鼻淵,合谷太衝隨手努。……鼻痔鼻流濁涕者,瀉太衝、合谷」。

 ◉『醫學入門』卷3・臟腑條分・肺:「鼻齆鼻痔或成淵」注:「……鼻端紫紅粉刺,謂之鼻齄。內生瘜肉,謂之鼻痔,流涕不止,謂之鼻淵。皆上熱下虛也」。


○鼻淵息肉上星補

  【訓み下し】

○鼻淵,息肉,上星を補う。

  【注釋】

 ★上星補:語法としては「補上星」。

 ◉『醫學入門』附雜病穴法:「鼻淵鼻衄虛者,專補上星」。

 ◉『醫學入門』治病要穴・上星:「主鼻淵、鼻塞、瘜肉及頭風目疾」。

 ◉『鍼灸聚英』上星:「主……鼻中息肉,鼻塞頭痛……」。


○一切鼻病風門[二推下相去脊中各二寸]深刺

  【訓み下し】

○一切鼻病に,風門[二推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『醫學入門』治病要穴・風門:「主易感風寒,咳嗽,痰血,鼻衄,一切鼻病」。

2024年3月27日水曜日

鍼灸溯洄集 61

   卷下・六ウラ(738頁)

  (7)耳[二]

  【注釋】

 ★耳:添え仮名には「テ」とあるが,「ニ」の誤りであろう。


耳者腎之竅也

  【訓み下し】

耳(みみ)は,腎の竅なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「耳者,腎之竅。腎虛則耳聾而鳴也」。


○左耳聾忿怒動膽火也

  【訓み下し】

○左の耳 聾(し)いるは,忿(ふん)怒(ど) 膽火を動かす。

  【注釋】

 ○動:事物改變原來位置或脫離靜止狀態。與「靜」相對。觸發、感觸。動搖;震撼。改變;變動。 ○膽火:證名。膽火偏盛所出現的證候。證見眩暈、目黃、口苦、坐臥不寧等。『張氏醫通』火:「目黃,口苦,坐臥不寧,此膽火所動也」。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「耳左聾者,忿怒動膽火也」。

 ◉『病名彙解』耳(に)聾(ろう):  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/69?ln=ja


○右耳聾者色慾動相火也

  【訓み下し】

○右〔の〕耳 聾(し)いるは,色慾 相火を動かす。

  【注釋】

 ○相火:生理學名詞。指寄居於肝腎二臟的陽火,是人體生命活動的動力。『格致餘論』相火論:「火內陰而外陽,主乎動也,故凡動皆屬火。以名而言,形氣相生,配於五行,故謂之君;以位而言,生於虛無,守位稟命,因其動而可見,故謂之相。……具於人者,寄於肝腎二部,肝屬木而腎主水也。膽者,肝之府;膀胱者,腎之府;心包絡者,腎之配;三焦以焦言,而下焦司肝腎之分,皆陰而下者也。天非此火,不能生物;人非此火,不能有生。……肝腎之陰,悉具相火,人而同乎天也」。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「耳右聾者,色慾動相火也」。


○兩耳聾者厚味動胃火也

  【訓み下し】

○兩の耳 聾(し)いる者は,厚味 胃火を動かす。

  【注釋】

 ○胃火:中醫學名詞。指胃熱熾盛化火的病變。胃火熾盛,可延足陽明胃經上炎,表現為牙齦腫痛、口臭、嘈雜易飢、便秘等。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「兩耳俱聾者,厚味動胃火也」。


○兩耳腫痛亦出膿者腎經之風熱也

  【訓み下し】

○兩の耳 腫れ痛み,亦た膿を出だすは,腎經の風熱なり。

  【注釋】

 ○風熱:病證名。風和熱相結合的病邪。臨床表現為發熱重、惡寒較輕、咳嗽、口渴、舌邊尖紅、苔微黃、脈浮數,甚則口燥、目赤、咽痛、衄血等。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「兩耳腫痛者,腎經有風熱也。……兩耳出膿者,腎經亦風熱也」。


○耳鳴如蟬聲聤耳膿出耳生瘡聽宮[耳前起肉當耳缺者陷中]百會[項中央旋毛中]陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]淺刺

  【訓み下し】

○耳鳴ること蟬の聲の如く,聤耳(ていに)膿出でて,耳 瘡(かさ)を生じ,聽宮[耳の前起肉の耳の缺けたに當たる者陷中]・百會[項(いただき)【頂】の中央(まんなか),旋毛(つじげ)の中(うち)]・陽谷[手の外の側(かたわら),腕(わん)の中(なか),銳骨(とがりほね)の下の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ★選穴は,『鍼灸聚英』雑病歌・耳目(か,『神應經』耳目部)によっていると思われる。ただ『鍼灸聚英』の手太陽小腸経には聽宮穴の記載がない(聽會に誤る。図は誤らず)。ここでの「聽宮」穴の部位と主治は,『鍼灸聚英』の耳門穴と合致するので,「聽宮」は「耳門」の書き誤りか,聽宮穴の部位注と耳門穴を書き漏らしたのかも知れない。→聽宮[耳中珠子,大如赤小豆]耳門[耳前起肉當耳缺者陷中]。

 ○聤耳:(suppurative otitis media),發生於中耳部的急性或慢性化膿性耳病。……相當於西醫的化膿性中耳炎。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「耳鳴百會與聽宮,聽會耳門絡却中,陽谿陽谷前谷穴,後谿腕骨中渚同,液門商陽腎俞頂,緫筭〔=總算〕十四穴裏攻,聤耳生瘡有膿汁」。

 ◉『神應經』耳目部:「耳鳴:百會 聽會 聽宮 耳門 絡卻 陽谿 陽谷 前谷 後谿 腕骨 中渚 液門商陽 腎俞」。「聤生瘡有膿汁:耳門 翳風 合谷」。

 ◉『鍼灸聚英』耳門:「耳前起肉,當耳缺者陷中。……主耳鳴如蟬聲,聤耳膿汁出,耳生瘡……」。

 ◉『鍼灸聚英』手太陽小腸經穴・聽會〔正しくは聽宮〕:「(一名多所聞)○耳中珠子,大如赤小豆。主……聤耳耳聾,如物填塞無聞,耳中嘈嘈憹憹蟬鳴」。

 ◉『鍼灸聚英』陽谷:「主……耳聾耳鳴……」。

 ★『鍼灸聚英』督脈の百會の主治に耳関連の記載なし。


  卷下・七オモテ(739頁)

○耳鳴耳聾合谷[手大指次指岐骨間]腕骨[手外側腕前起骨下陷中]少海[肘內大骨外去肘端五分陷中]肩貞[曲胛下兩骨觧間肩髃後陷中]淺刺

  【訓み下し】

○耳鳴り耳聾(し)いるに,合谷[手の大指の次の指の岐骨(ちまたほね)の間]・腕骨[手の外の側(かたわら),腕前起骨の下の陷中]・少海【小海】[肘(うで)の內(うち),大骨の外(ほか),肘(うで)の端を去る五分の陷中]・肩貞[曲胛の下(しも),兩骨の解(とけめ)の間(あいだ),肩髃の後の陷中],淺く刺す。

  【注釋】

 ★少海:「小海」とすべきもので,『鍼灸聚英』によると思われる。『鍼灸聚英』は,少陰心經・太陽小腸經,ともに「少海」に作る。

 ◉『鍼灸聚英』合谷:「主……耳聾……」。

 ◉『鍼灸聚英』腕骨:「主……寒熱耳鳴……」。

 ◉『鍼灸聚英』手少陰心經穴・少海:「(一名曲節)肘內廉節後,大骨外,去肘端五分。屈肘向頭得之」。主治に「耳鳴耳聾」なし。

 ◉『鍼灸聚英』手太陽小腸經穴・少海〔正しくは小海〕:「肘內大骨外,去肘端五分陷中。屈手向頭取之。……主……耳聾目黃……」。

 ◉『鍼灸聚英』肩貞:「主……耳鳴耳聾……」。


○耳不聦耳鳴痛天牖[頸大筋外完骨下髮際上]顱𩔨[耳後間青絡脉中]絡却[通天後一寸半]淺刺

  【訓み下し】

○耳聰(さと)からず,耳鳴り痛むに,天牖[頸(くび)の大筋(きん)の外,完骨の下(した),髮際の上(かみ)]・顱𩔨(けんろ)[耳の後の間(あいだ),青絡脈の中(なか)]・絡却[通天の後ろ一寸半]淺く刺す。

  【注釋】

 ★顱𩔨(けんろ):添え仮名にしたがえば,「懸顱」穴の可能性があるが,懸顱には耳関連の主治がない。またその部位の説明は「顱息」穴と一致するので,「顱𩔨」は「顱息」の誤りであろう。

 ○聦:「聰・聡」の異体字。聽覺敏銳。如:「耳聰目明」。

 ◉『鍼灸聚英』天牖:「頸大筋外,缺盆上,天容後,天柱前,完骨下,髮際上。……主……耳不聰……」。

 ◉『鍼灸聚英』顱息:「耳後間青絡脈中。……主耳鳴痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』懸顱:「曲周上,顳顬上廉」。懸顱の主治に耳関連なし。

 ◉『鍼灸聚英』絡却:「通天後一寸五分。……主頭旋耳鳴……」。『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「耳鳴百會與聽宮,聽會耳門絡却中」。

2024年3月26日火曜日

鍼灸溯洄集 60

   卷下・五ウラ(736頁)

  (6)眼目[ガンモク]

目之失明者四氣七情之所害也眼目爲五藏之

精華一身之至要肝爲烏睛心爲二眥脾爲上下

胞肺爲白睛腎爲眸子其症七十有二治之須䆒

其所因大眥赤紅肉起者心經實熱也小眥赤紅

絲血脹者心經虗熱也烏眼紅白翳障者肝病也

白珠紅筋翳膜者肺病也上下眼胞如桃者脾病

  卷下・オモテ(737頁)

也迎風出淚坐起生花者腎病也

  【訓み下し】

目(め)の明を失うは,四氣(しき)七情(しちじよう)の害する所なり。眼目 五藏の精華,一身の至要と爲す。肝は烏睛と爲る。心は二眥と爲る。脾は上下の胞(まぶた)と爲る。肺は白睛と爲る。腎は眸子(ひとみ)と爲る。其の症 七十有(ゆう)二。之を治(ぢ)するに其の所因を究む須(べ)し。大眥赤紅(しゃくこう),肉起こるは,心經の實熱なり。小眥の赤紅,絲血の脹(ふく)れるは,心經 虛熱なり。烏眼(くろまなこ) 紅白翳障は,肝の病なり。白珠 紅筋(あかすじ)翳膜は,肺の病なり。上下の眼(ま)胞(ぶた) 桃の如きは,脾の病なり。風に迎(む)かって淚(なんだ)出で,坐起 花を生じば,腎の病なり。


  【注釋】

 ○失明:眼睛喪失了視力。 ○四氣:春、夏、秋、冬四時的氣候。指春、夏、秋、冬四時的溫、熱、冷、寒之氣。漢儒附會天人相應之說,以喜怒樂哀應四時為四氣。 ○七情:指喜、怒、憂、思、悲、恐、驚等七種情志活動。為人的精神意識對外界事物的反應。作為病因是指這些活動過於強烈、持久或失調,引起臟腑氣血功能失調而致病。『素問』舉痛論:「怒則氣上,喜則氣緩,悲則氣消,恐則氣下,……驚則氣亂,……思則氣結」。又包括某些內臟病變而繼發的病態情志活動。『靈樞』本神:「肝氣虛則恐,實則怒」。 ○精華:精華,指五臟之氣中最精粹部分。『素問』疏五過論:「愚醫治之,不知補瀉,不知病情,精華日脫,邪氣乃並〔技術低劣的醫生,在診治這種疾病時,既不能恰當地運用補瀉治法,又不了解病情,致使精氣日漸耗散,邪氣得以積並〕」。 ○至要:極重要的部分。 ○烏睛:黑睛又名黑珠、黑仁、烏睛、烏珠等。位於眼珠正前方,為無色透明而近圓形的膜,周邊與白睛相連,具有衞護瞳神的作用,也是保護神光發越的組織之一。/烏:黑色的。/睛:眼珠。眼睛。 ○眥:眼眶。人體部位名。指大小眼角。也即上下眼瞼連結的部位。又稱大眼角為內眥、大眥;稱小眼角為外眥、銳眥。 ○胞:指眼瞼。『脈訣』:「眼胞忽陷定知亡」。 ○白睛:解剖名稱。出『諸病源候論』卷二十八。又名白眼、白仁、白珠、白輪、眼白。包括今之球結膜與鞏膜。前端與黑睛緊連,共組成眼珠外層。彼此病變常牽累。白睛內應於肺,為五輪中之氣輪,肺與大腸相表裡,故白睛疾患常與肺或大腸有關。 ○眸子:即瞳子、瞳仁。『靈樞』刺節真邪:「刺此者,必於日中,刺其聽宮,中其眸子,聲聞於耳,此其輸也」。(按:「中其眸子」形容針刺感應可從聽宮穴擴散到眼睛,不是真刺眼球。) ○須:本書では,「宜」とともに再読されず,単に「べし」と訓まれる。 ○䆒:「究」の異体字。 ○所因:指所來的地方。 ○大眥:即指內眥。內眥又名目內眥、大眥、眼大頭、眼大嘴、眼大睫、(眼)大角。即內眼角(上下眼瞼在鼻側連結部)。是足太陽膀胱經的起點,有睛明穴。 ○實熱:指邪氣盛實之發熱。陽熱之邪侵襲人體,由表入裏所致的病證。 ○小眥:即目外眥。外眥亦名銳眥、小眥、眼梢頭、眼小嘴、眼小睫、眼小角、目銳眥、小眥。 ○絲血脹者:添え仮名は「シケツメフクレルハ」。ここでは目尻のことを述べているので,「メ」は「ノ」の誤字と判断して【訓み下し】た。/絲:纖細如絲的東西。指極微的量。/なお和刻本『万病回春』は「赤紅」とつづけず,「大眥赤く,紅肉堆(うずたか)く起こる者は……,小眥赤く,紅絲血脹する者は」と訓んでいる。 ○虗熱:陰陽氣血虛虧引起的發熱。泛指陰、陽、氣、血不足而引起的發熱,分別稱爲陰虛發熱、氣虛發熱、血虛發熱、陽虛發熱。 ○翳障:障蔽。【障翳】遮蔽。障扇。/翳:一種瞳孔為白膜所蒙蔽,以致無法看清東西的眼疾。/障:遮蔽、遮擋。類似屏風的帷幕或物品。 ○膜:動、植物體內像薄皮的組織。 ○眼胞:眼皮。 ○坐起:安坐與起立,指行為舉止。起身而坐。 ○迎風:面對著風。風に逆らう。 ○出淚:添え仮名は「ナンダイテ」。下文の添え仮名は「ナミタイデ」。「なんだ」は「なみだ」の音変化。 ○生花:眼昏花。/花:模糊不清。如:「眼睛都花了」。宋 徐鉉『亞元舍人猥貽佳作因為長歌兼寄陳君庶』:「酒酣耳熱眼生花,暫似京華歡會處」。 

 ◉『萬病回春』卷5・眼目:「目之失明者,四氣七情之所害也。大抵眼目為五臟之精花,一身之至要也,故五臟分五輪,八卦名八廓。五輪者,肝屬木,曰風輪,在眼為烏睛;心屬火,曰火輪,在眼為二眥;脾屬土,曰肉輪,在眼為上下胞;肺屬金,曰氣輪,在眼為白睛;腎屬水,曰水輪,在眼為瞳子。……其症七十有二。治之須究其所因。……眼者,五臟六腑之精華也。大眥赤、紅肉堆起者,心經實熱也;小眥赤、紅絲血脹者,心經虛熱也;烏睛紅白翳障者,肝病也;白珠紅筋翳膜者,肺病也;上下眼胞如桃者,脾病也;迎風出淚、坐起生花者,腎病也」。


  卷下・六オモテ(737頁)

○肝氣實熱血目赤絲竹空[眉後陷中]百會[項中央旋毛中]上星[入前髮際一寸陷中]淺刺

  【訓み下し】

○肝氣實し,熱血,目赤きに,絲竹空[眉後の陷中]・百會[項(いただき)【頂】の中央(まんなか),旋毛(つじげ)の中(うち)]・上星[前の髮の際(はえぎわ)に入る一寸の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雑病・眼目:「肝氣實、風熱、痰熱、血瘀熱、血實氣壅。絲竹空、上星、百會、攢竹宣洩」。

 ◉『鍼灸聚英』絲竹空:「主目眩頭痛,目赤,視物䀮䀮不明……」。

 ◉『鍼灸聚英』上星:「主……目眩,目睛痛,不能遠視……」。

 ◉『神應經』耳目部:「目赤:目窗 大陵 合谷 液門 上星 攢竹 絲竹空」。


○目內眥痛淚出不明風池[耳後髮際陷中]合谷[手大指次指歧骨間陷中]深刺

  【訓み下し】

○目の內眥(まがしら)痛み,淚(なんだ)出で,明らかならず,風池[耳の後ろ髮の際の陷中]・合谷[手の大指の次の指,歧骨(ちまたほね)の間の陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』風池:「主……目淚出……目內眥赤痛……目不明」。

 ◉『鍼灸聚英』合谷:「主……目視不明,生白翳……」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病・眼目:「痛者,風池、合谷」。


○頭痛如破目疼如脫目瞤目風出淚偏風視物不明頭維[入髮際神庭傍四寸五分]後谿[手小指外側本節後陷中握拳取之]淺刺

  【訓み下し】

○頭痛 破(わ)るが如く,目疼(いた)み脫(ぬ)けるが如く,目瞤(うるお)い,目風 淚(なみだ)出で,偏風,物を視て明らかならず,頭維[髮際に入る神庭の傍ら四寸五分]・後谿(こうけい)[手の小指外の側(かたわら),本節(もとふし)の後ろの陷中,拳(こぶし)を握り之を取る]淺く刺す。

  【注釋】

 ○目瞤:症狀名。胞輪振跳(twitching eyelid;blepharospasm)。俗稱眼皮跳,眼眉跳。清・黃庭鏡『目經大成』卷二:「此症謂目瞼不待人之開合,而自牽拽振跳也」。/まぶたの痙攣。一説には,眼珠跳動。著者は「潤」字と混同しているようだ。 ○目風:『素問』風論:「風氣循風府而上,則爲腦風。風入係頭,則爲目風,眼寒」。『類經』注:「風自腦戶入係於頭,則合於足之太陽。太陽之脈起於目內眥,風邪入之,故為目風,則或痛或癢,或眼寒而畏風羞澀也」。泛指因風邪所致之目疾。目掣動謂之目風。/參見目𤸪:目𤸪爲症狀名。出『黃帝內經靈樞』熱病。𤸪,引縱也。謂宜近而引之遠,宜遠而引之近,皆爲牽掣也。此處指目牽動感。 ○偏風:病證名。又稱「偏枯」,即半身不遂。ただ,「目瞤,目風淚出」と「視物不明」の間にあり,不審。頭維の主治としては,『鍼灸甲乙經』『備急千金要方』などには「偏風」は見えない。『鍼灸資生經』卷6・目不明に,「頭維治偏痛,目視物不明」とある。『神應經』頭面部に「頭偏痛:頭維」とある。これらによれば,「偏風」は「偏痛」の誤りか。なお「偏痛」の用例としては,『素問』『靈樞』に「上氣短氣偏痛」「胸偏痛」「脈偏痛」がある。

 ◉『鍼灸聚英』頭維:「主頭痛如破,目痛如脫,目瞤,目風淚出,偏風,視物不明」。

 ◉『鍼灸聚英』後谿:「主……目赤生翳……」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「目風赤爛陽谷燒,赤翳攢竹後谿高。……目翳膜者治合谷,臨泣角孫液門巔,後谿中渚睛明穴。……眼淚出治臨泣穴,百會液門與後谿,通前通後共八穴」。


○雀目逺視不明出淚內眥赤痛䀮䀮無見眥癢白翳弩肉侵睛睛明[內眥頭外一分陷中]攅竹[眉頭陷中]曲差[神庭旁一寸半入髮際]淺刺且久留玉枕[腦戶旁一寸半]風門[二推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○雀目(とりめ),遠く視て明らかならず,淚(なみだ)出で,內眥(まがしら)赤く痛み,䀮䀮として見ること無く,眥(まじり)癢(かゆ)く,白翳弩肉 睛(せい)を侵し,睛明[內眥(ないし)の頭(かしら)の外(そと)一分の陷中]・攢竹[眉頭(びとう)の陷中]・曲差[神庭の旁ら一寸半,髮際に入る]淺く刺す。且つ久しく留(とど)む。玉枕(ぎよくしん)[腦戶の旁ら一寸半]・風門[二推の下(した),脊中を相い去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ★逺:「遠」の異体字。以下,あれば「遠」で入力する予定。 

 ○雀目:病證名。系指夜間視物不清的一類病證。又有雞蒙眼、雞盲等別稱。亦即今之夜盲。 ○䀮䀮:『玉篇•目部』:「䀮,目不明」。『素問・藏氣法時論』:「虚則目䀮䀮無所見,耳無所聞」。 ○弩肉:胬肉。一種眼病,中醫指眼球結膜增生而突起的肉狀物,即翼狀胬肉。 ○玉枕:添え仮名には「ギョクシンニ」とある。返り点のつけ忘れで,「久しく玉枕に留む」と訓む可能性があるが,『鍼灸聚英』睛明穴に「雀目者,可久留鍼」とあるので,「久留」は前文のつづきと判断し,「ニ」は衍文として処理した。

 ◉『鍼灸聚英』睛明:「雀目者,可久留鍼。然後速出鍼。……主目遠視不明,惡風淚出,憎寒頭痛,目眩,內眥赤痛,䀮䀮無見,眥癢,浮膚白翳,大眥攀睛弩肉侵睛,雀目,瞳子生障,小兒疳眼。/按東垣曰:刺太陽、陽明出血,則目愈明。蓋此經多血少氣,故目翳與赤痛從內眥起者,刺睛明、攢竹,以宣泄太陽之熱,然睛明刺一分半,攢竹刺一分三分,為適淺深之宜。今醫家刺攢竹,臥針直抵睛明,不補不瀉,而又久留鍼,非古人意也」。

 ◉『鍼灸聚英』曲差:「主目不明……」。

 ◉『鍼灸聚英』玉枕:「絡卻後一寸五分,又云七分。俠腦戶旁一寸三分,起肉枕骨上,入髮際二寸。……主目痛如脫。不能遠視」。

 ◉『鍼灸聚英』風門:「主……目瞑……」。


○目風赤爛陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]太陵[掌後骨下兩筋間陷]深刺

  【訓み下し】

○目風,赤く爛(ただ)れ,陽谷[手の外の側(かたわら),腕(わん)の中(なか),銳骨(ぜいこつ)の下の陷中]・太陵[掌後の骨の下(した),兩筋の間の陷]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「凡人目赤目窗鍼,大陵合谷液門臨,上星絲竹空攢竹,七〔和刻本は「十」に誤る〕穴治之病絕根,目風赤爛陽谷燒」。


○目生翳膜液門[手小指次指間陷中握拳取之]中渚[腋門下一寸次指本節後間之陷中]後谿合谷[穴處出上]淺刺角孫[耳郭中間上髮際之下開口有穴]臨泣[足小指次指本節後間陷]深刺

  【訓み下し】

○目に翳膜を生じ,液門[手の小指の次の指の間の陷中。拳を握り之を取る]・中渚[腋門の下一寸,次の指の本節(もとふし)の後ろの間の陷中]・後谿・合谷[穴處 上に出づ]淺く刺す。角孫[耳郭(にかく)の中間(まんなか)の上,髮際の下(しも),口を開(ひら)けば穴(あな)有り]・臨泣[足の小指の次の指本節(もとふし)の間の陷]深く刺す。

  【注釋】

 ★臨泣穴の主治からすると,足の臨泣ではなく,頭の臨泣。位置の説明は誤りであろう。

 ○目生翳膜:眼睛裡長了遮擋視線膜,應該類似於咱們現在所說的白內障。/翳:有遮蔽的意思。/膜:就是動物體能一層薄皮。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「目翳膜者治合谷,臨泣角孫液門巔,後谿中渚睛明穴」。

 ◉『鍼灸聚英』中渚:「手小指次指本節後間陷中,在腋門下一寸」。

 ◉『鍼灸聚英』足少陽膽經・(頭)臨泣:「主目眩,目生白翳,目淚,……反視……目外眥痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』足少陽膽經・(足)臨泣:「主胸中滿,缺盆中及腋下馬刀瘍瘻,善齧頰,天牖中腫,淫濼,䯒酸,目眩,枕骨合顱痛,灑淅振寒,心痛,周痹痛無常處,厥逆氣喘,不能行,痎瘧日發,婦人月事不利,季脇支滿,乳癰」。

2024年3月25日月曜日

鍼灸溯洄集 59

   卷下・五オモテ(735頁)

  (5)眩暈 

  【注釋】

 ◉『病名彙解』眩(けん)暈(うん):「目のまうことなり。或は眩運といひ,或は眩冒と云。眩は其黑を云。暈は其の轉[メグル]ずるを云。冒とは其昏(くらき)を云。運も〈めぐる〉とよめり。皆一なり。目がまへばめぐるやうにて昏なるを以てなり。大概肥[コヘ]人は多くは濕痰 上に滯りて,火 下より起るなり。瘦[ヤセル]人は多くは腎水虧(かけ)少なくして,相火上炎して眩暈するなり。


眩者黑運旋轉其狀目閉眼暗身轉耳聾如立舟車之上凡頭眩者痰也下虗上實脉頭暈眩風浮寒眩緊濕眩細暑眩虗痰眩滑

  【訓み下し】

眩は,黑運旋轉,其の狀(かたち)目閉じ眼(まなこ)暗く,身(み)轉じ耳(みみ)聾(し)い,舟(しゆう)車(しや)の上(うえ)に立つが如く,凡そ頭眩(ずけん)は,痰なり。下(しも)虛し上(かみ)實し,脈,頭暈,眩風は浮,寒眩は緊,濕眩は細,暑眩は虛,痰眩は滑。

  【注釋】

 ★後半部分,難解。『萬病回春』にしたがって意訳すれば,「下(しも)が虛し上(かみ)が實してなる。頭暈の脈狀は,風邪によるめまいは浮,寒邪によるめまいは緊,濕邪によるめまいは細,暑邪によるめまいは虛,痰によるめまいは滑である」。

 ◉『萬病回春』卷4・眩暈:「脈:風寒暑濕,氣鬱生涎;下虛上實,皆頭暈眩。風浮寒緊〔風(が原因の場合)は浮(脈),寒は緊(脈)〕;濕細暑虛〔濕は細(脈),暑は虛(脈)〕;痰弦而滑〔痰は弦にして滑(脈)〕;瘀芤而澀;數大火邪;虛大久極。先理氣痰,次隨症脈。眩者,言其黑運旋轉,其狀目閉眼暗、身轉耳聾,如立舟車之上,起則欲倒。蓋虛極乘寒得之,亦不可一途而取軌也。大凡頭眩者,痰也」。


○寒濕風痰目眩合谷[手大指次指歧骨間陷中]豐隆[外跗上八寸下䯒外廉陷]觧谿[足大指次指直上跗上之陷中]風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]淺刺

  【訓み下し】

○寒濕風痰目眩は,合谷[手の大指の次の指の歧骨(ちまたほね)の間の陷中]・豐隆[外(そと)の跗上八寸,下(しも)䯒(はぎ)の外廉(そとかど)の陷(くぼみ)]・解谿[足の大指の次の指直ちに上(かみ),跗(こう)の上の陷中]・風池[耳の後(あと)髮の際(はえぎわ)陷中,之を按(お)せば,耳の中(うち)に引く]淺く刺す。

  【注釋】

 ★豐隆:「外跗上」は「外踝上」の誤り。和刻本『鍼灸聚英』による。/跗:足の甲。『玉篇』足部:「跗,足上也」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「頭風眩暈治合谷,次及豐隆解谿方,再兼風池通四穴」。

 ◉『鍼灸聚英』豐隆:「外跗〔明刊本作「踝」〕上八寸,下䯒外廉陷中」。

 ◉『鍼灸甲乙經』豐隆:「在外踝上八寸,下廉胻外廉陷者中」。


○頭眩目眩臨泣[足小指次指本節後間陷]風府[項後入髮際一寸]

  【訓み下し】

○頭眩目眩,臨泣[足の小指の次の指の本節(もとふし)の後(あと)の間の陷]・風府[項(うなじ)の後(あと),髮際(はっさい)に入る一寸]

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』通玄指要賦:「風傷項急,始求於風府。頭暈目眩,要覓於風池」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「目眩臨泣風府中」。

 ◉『鍼灸聚英』(頭)臨泣:「目上,直入髮際五分陷中,令患人正睛取穴。……主目眩」。

 ◉『鍼灸聚英』(足)臨泣:「足小指次指本節後間陷中,去俠谿一寸五分。……主……目眩」。

 ◉『神應經』耳目部:「目眩:臨泣 風府 風池 陽谷 中渚 液門 魚際 絲竹空」。


○上逆目眩中渚[手小指次指本節後間陷]梁門[承滿下一寸去中行三寸]陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]淺刺

  【訓み下し】

○上逆目眩,中渚[手の小指の次の指本節(もとふし)の後(あと)の間の陷]・梁門[承滿の下(しも)一寸,中行を去る三寸]・陽谷[手の外の側(かたわら),腕(わん)の中(なか),銳骨(とがりほね)の下の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ★「梁門」穴に「目眩」の主治なし。「液門」の誤りか。

 ◉『鍼灸聚英』中渚:「主……目眩頭痛」。

 ◉『鍼灸聚英』陽谷:「主……目眩」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「目眩臨泣風府中,風池陽谷中渚同,通前通後共八穴」。

 ◉『鍼灸聚英』梁門:「主脇下積氣,食飲不思,大腸滑泄,完穀不化」。(目眩なし)

 ◉『鍼灸聚英』六十六穴陰陽二經相合相生養子流注歌:「液門(滎水)手臂痛寒厥,妄言驚悸昏,偏頭疼目眩,當以液門論」。

 ◉『醫學入門』液門:「主……目澀目眩……」。

 ◉『神應經』耳目部:「目眩:臨泣 風府 風池 陽谷 中渚 液門 魚際 絲竹空」。

2024年3月24日日曜日

鍼灸溯洄集 58

   卷下・四オモテ(733頁)

 (4)頭痛 

氣虗頭痛者耳鳴九竅不利

  【訓み下し】

氣虛の頭(ず)痛(つう)は,耳鳴り,九竅 利せず。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「氣虛頭痛者,耳鳴、九竅不利也」。


○濕熱頭痛者頭重如石

  【訓み下し】

○濕熱の頭痛は,頭(かしら)重きこと石の如し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「濕熱頭痛者,頭重如石,屬濕也」。


○風寒頭痛者身重惡寒寒邪從外入宜汗之

  【訓み下し】

○風寒の頭痛は,身重く惡寒,寒邪 外(ほか)從(よ)り入(い)る,之を汗(あせ)す宜(べ)し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「風寒頭痛者,身重惡寒,寒邪從外入,宜汗之也」。


  卷下・四ウラ(734頁)

○偏頭痛者少陽陽明經左半邊属火属風右半邊属痰属熱也。

  【訓み下し】

○偏頭痛は,少陽陽明經,左(ひだり)半邊は火(ひ)に屬し風(かぜ)に屬す。右(みぎ)半邊は痰に屬し熱に屬す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「偏頭痛者,手少陽、陽明經受症;左半邊屬火、屬風、屬血虛;右半邊屬痰、屬熱也」。

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「少陽頭痛者,往來寒熱也;陽明頭痛者,自汗發熱惡寒也;太陽頭痛者,有痰重或腹痛,為之痰癖也;少陰經痛者,三陰三陽經不流行而足寒,氣逆為寒也;厥陰頭痛者,或痰多厥冷也;血虛頭痛者,夜作苦者是也。眉輪骨痛,痰火之徵也;又云風熱與痰也。有汗虛羞明眉眶痛者,亦痰火之徵也」。


○眞頭痛者腦盡而疼手足冷至節者不治朝發夕死

  【訓み下し】

○眞頭痛は,腦盡(ことごと)く疼(いた)み,手足冷え節(ふし)に至るは,治(ぢ)せず。朝(あした)に發(お)こり夕(ゆうべ)に死す。

  【注釋】

 ○眞:「真」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「真頭痛者,腦盡而疼。手足冷至節者,不治也」。

 ◉『靈樞』厥病:「真心痛,手足清至節,心痛甚,旦發夕死,夕發旦死」。


○頭痛項急不得回顧風府[項後入髮際一寸也]百會[項中央旋毛中可容豆直兩耳尖]上星[神庭後入髮際一寸陷中容豆]淺刺

  【訓み下し】

○頭痛,項(うなじ)急に回(かえ)り顧(み)ること得ざるは,風府[項(うなじ)の後(した),髮の際(はえぎわ)に入ること一寸也]・百會[項(いただき)【頂】の中央(まんなか),旋毛(つじけ)の中(なか),豆(まめ)を容(い)る可し。直(ただ)ちに兩耳(に)の尖り]・上星[神庭の後(あと),髮の際(はえぎわ)に入る一寸の陷中,豆を容(い)る]淺く刺す。

  【注釋】

 ★本書では,「項」「頂」字が混同されている。

 ○つじげ:【旋毛】馬の毛で、渦のように巻いているもの。つじ。つむじ。つむじげ。/つむじ【旋毛】頭頂にある毛が集中して放散性の渦状になっている部分の俗称。

 ◉『鍼灸聚英』風府:「主中風,舌緩不語,振寒汗出身重,惡寒頭痛,項急不得回顧……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・頭面:「頭痛百會上星中。……頭風牽引腦項痛,上星百會合谷同」。


○頭重痛頸項如秡腦空[夾玉枕骨下陷者中]風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]上星[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○頭(かしら)重く痛み,頸項(けいこう) 秡(ぬ)【拔】けるが如し,腦空[玉(ま)枕(くら)骨(ほね)を夾(さしはさ)む下(しも)の陷者中]・風池[耳の後ろ,髮の際(はえぎわ)の陷中,之を按(お)せば耳の中(うち)に引く]・上星[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ○秡:添え仮名「ヌケルカ」,および『鍼灸聚英』風池穴の主治を参考にすれば,「拔」字の誤り。 ○玉枕骨:後頭骨。又名枕骨、後山骨、乘枕骨、後枕骨。枕骨[occipital bone] 形成顱骨後部並圍繞著枕骨大孔的一塊複合骨。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・頭面:「腦痛上星風池中,腦空天柱少海攻」。

 ◉『鍼灸聚英』腦空:「主……頸項強不得回顧,頭重痛不可忍……」。

 ◉『鍼灸聚英』風池:「主……偏正頭痛,痎瘧,頸項如拔,痛不得回顧……」。

 ◉『鍼灸聚英』上星:「主腦虛冷,或飲酒過多,腦疼如破,衄血,面赤暴腫,頭皮腫,生白屑風,頭眩,顏青目眩,鼻塞不聞香臭,驚悸,目戴上,不識人」。


○頭風面目赤通里[腕後一寸陷中]觧谿[足大指次指直上跗上陷者中]深刺

  【訓み下し】

○頭風(ずふう),面(かお)目(め)赤きに,通里[腕後一寸陷中]・解谿(がいけい)[足の大指の次の指,直(ただ)ちに上(かみ),跗(こう)の上(かみ),陷者中]深く刺す。

  【注釋】

 ○觧:「解」の異体字。『鍼灸聚英』による。 ○次指:「指」の添え仮名は「タヽ」。これは下にある「直」字の添え仮名「タヽチニ」に影響された誤りと判断した。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「頭風面目赤何治,通里觧谿真有功」。


○醉後頭風攅竹[兩眉頭少陷中]三里[膝下三寸]淺刺

  【訓み下し】

○醉後の頭風(ずふう),攢竹[兩の眉の頭(かしら),少し陷中]・三里[膝下三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』頭面部:「醉後頭風:印堂 攅竹 三里」。『神應經』で,単に「三里」とあれば,足の三里のこと。手の三里は「手三里」と表記されている。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「醉後頭風治印堂,攅竹三里三穴當」。


○頭面項俱痛百會[穴處出上]後項[百會後一寸五分枕骨上]合谷[手大指次指歧骨間]淺刺

  【訓み下し】

○頭(ず)面(めん)項(うなじ)俱に痛むに,百會[穴處 上に出づ]・後項(ごちよう)【後頂】[百會の後(あと)一寸五分,枕骨(まくらぼね)の上(かみ)]・合谷[手の大指(おおゆび)の次の指の歧骨(ちまたほね)の間(あいだ)]淺く刺す。

  【注釋】

 ○「後項」に「ゴテウ」と添え仮名あり。『鍼灸聚英』雑病歌・頭面は「項後」に作る。『神應經』頭面部には「面」字がないことから,『鍼灸聚英』を出典として「項後」を「後項」とし,「後頂」穴と判断したものと思われる。『鍼灸聚英』は『神應經』に基づいて歌を作ったが,七字句にするために「面」字を入れたのであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「患者頭面項俱痛,百會項後合谷強」。

 ◉『神應經』頭面部:「頭項俱痛:百會 後頂 合谷」。


  卷下・五オモテ(735頁)

○逆上頭痛大衝[足大指本節後二寸]陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷者中]絲竹空[眉後陷中]淺刺

  【訓み下し】

○逆上の頭痛には,大衝[足の大指(おおゆび)の本節(もとふし)の後(あと)二寸]陽陵泉・[膝の下(しも)一寸,䯒(はぎ)の外廉の陷者中]・絲竹空[眉の後ろの陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ★出所未詳。

 ○逆上:興奮して、頭部や顔面などが充血すること。のぼせ上がって精神が正常でなくなること。激しい怒りや悲しみなどのために、頭に血が上ること。/のぼせ。 熱気や興奮などのために、頭がぼうっとすること。上気すること。/「逆上頭痛」は和語で,厥(逆)頭痛に相当するものか。厥頭痛,病證名。厥,逆亂之意。頭痛因手經氣衝逆所致,名為厥心痛。『靈樞』厥病:「厥頭痛,面若腫起而煩心,取之足陽明、太陰。厥頭痛,頭脈痛,心悲善泣,視頭動脈反盛者,刺盡去血,後調足厥陰。厥頭痛,貞貞頭重而痛,瀉頭上五行,先取手少陰,後取足少陰。厥頭痛,意善忘,按之不得,取頭面左右動脈,後取足太陰。厥頭痛,項先痛,腰脊為應,先取天柱,後取足太陽。厥頭痛,頭痛甚,耳前後脈涌有熱,瀉出其血,後取足少陽」。

 ○大衝:『鍼灸聚英』太衝穴の主治には頭痛がないので,「天衝」の誤字であろうか。

 ◉『鍼灸聚英』天衝:「主……頭痛」。

 ○大指(おおゆび):添え仮名「ヲホユビ(おおゆび)」。「大指」には「おゆび」という添え仮名もある。これは「おおゆび」を省略したわけではないようだ。/虎明本狂言・察化(室町末‐近世初)「『ねずみ色なとりの、まつこれほどな大きさでおじゃる』と云て、おゆびを見する」。

 ◉『鍼灸聚英』陽陵泉:「主……頭面腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』絲竹空:「主目眩頭痛……偏正頭疼」。

鍼灸溯洄集 57

   卷下・三オモテ(731頁)

  (3)脚氣

足內踝骨紅腫而痛者曰遶蹕風

  【訓み下し】

足の內踝(うちくるぶし)の骨 紅(あか)く腫れて痛む者は,遶蹕風(じようひつふう)と曰う。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「足內踝骨紅腫痛者,名曰遶蹕風」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100244243/369?ln=ja

 ○遶蹕風:『萬病回春』の原文のままだが,管見では他書には見えない用語。/遶:「繞」の異体字。めぐる,かこむ。/蹕:古時帝王出行時,實施交通管制,禁止人車通行,稱為「蹕」。泛指帝王出行時止宿的地方。/『回春』の説明から考えると,「蹕」は「踝」の誤字であろう。

 ◉『普濟方』卷417・鍼灸門・諸風:「治繞踝風:刺曲池二穴。如繞外踝痛,兼刺絲絡二穴。如繞內踝痛,兼治大都二穴……」。

 ◉『類經圖翼』卷6・經絡・手陽明大腸經穴:「曲池……主治……繞踝風,手臂紅腫,肘中痛……」。


○外踝骨紅腫而痛者曰穿踭風

  【訓み下し】

○外踝(とくるぶし)の骨 紅(あか)く腫れて痛む者は,穿踭風と曰う。

  【注釋】

 ○踭:方言,脚跟。

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「足外踝骨紅腫痛者,名曰穿踭風」。


○兩膝紅腫痛者曰鶴膝風

  【訓み下し】

○兩膝 紅(あか)く腫れて痛む者は,鶴膝風と曰う。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「兩膝紅腫痛者,名曰鶴膝風」。

 ◉『指南』病名彙考・鶴膝風:「『準繩』云,兩膝の内外皆腫痛して虎の咬(かむ)狀の如く,寒熱間(こもごも)作(おこり),股(もも)漸く細小にして,膝いよいよ腫大になるを鶴膝風と名く云云」。

 ◉『病名彙解』鶴膝風:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/193?ln=ja


○兩腿胯痛者曰腿肞風

  【訓み下し】

○兩腿(もも)胯(こ)痛する者は,腿肞風(たいしゃふう)と曰う。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「兩腿胯痛者,名曰腿【月+又】風」。

 ★著者は「胯痛」を「こつう」と訓んでいるので,症状の一種と理解したのかも知れない。上文の訓にならえば,「兩腿(もも)胯(また) 痛む者は」と訓んだほうがよかろう。

 ○胯:腰側與大腿之間的部分。『說文解字』肉部:「胯,股也」。段玉裁注:「合兩股言曰胯」。

 ★肞:『萬病回春』の原文も【月+又】に作るが,添え仮名に「シヤ」とあるので,「肞」に翻字した。/肞:干し肉。『康熙字典』:「【篇海類編】音义。腶肞,脯也」。

 ○腿肞風:この用語も未見。【月+又】字は,「股」の誤字か。

 ◉『鍼灸聚英』天元太乙歌:「環跳能除腿股風」。


○內𦀰曰依濕者筋脉弛長而軟或浮腫生臁瘡曰濕脚氣

  【訓み下し】

○『內經(だいきょう)』に曰わく,「濕に依れば,筋脈弛長して軟らかなり」。或いは浮(うそ)腫れ,臁瘡(はぎかさ)を生ず,濕脚氣と曰う。

  【注釋】

 ○𦀰:「經・経」の異体字。以下,翻字は「經」とする。「脛」字などの旁も同じように書かれているが,同様に「脛」などで翻字する。 ○うそはる:薄腫。「うそ」は接頭辞。すこしばかり腫れあがる。 ○臁瘡:病名。由葡萄球菌或鏈球菌所引起的皮膚病。起初皮膚上會發生小膿泡,後逐漸增大,形成潰瘍、流膿、疼痛,最後留下瘢痕。/臁:脛的兩旁,即小腿兩側。

 ◉『指南』病名彙考・臁瘡:「俗に云はばきかさ。或はがんがさとも云」。

 ◉『病名彙解』臁瘡:「俗に云はばき瘡なり。はばきをする處に生ずるが故なり。○『外科集驗方』〔卷下・臁瘡論〕に云……,又曰,〈此の瘡 臁骨に生ずるを重(おもし)とす。……〉と云り。或は兩の曲䐐〔ヒツカガミ〕膀肚〔コムラ〕の下,內外兩踝の前に生ずるなり。臁は脛臁〔ハバキ〕なり」。/臁骨:脛骨。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/160?ln=ja

 ○はばき:【脛巾・行纏・脛衣】 (「脛穿(はぎはき)」、また、「脛巾裳(はばきも)」の略ともいう) 古く、旅行・外出の時などに、すねに巻きつけひもで結んで、脚を保護し動きやすくするもの。わらや布で作られ、後世の脚絆(きゃはん)にあたる。

 ○がんがさ:【雁瘡】 皮膚病の一種。湿疹、痒疹などをいう。四肢、とくに足に多くでき、非常にかゆい。俗に、雁が渡ってくるころにでき、去るころになおるところからいう。

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「腫者,名濕脚氣。濕者,筋脈弛長而軟,或浮腫,或生臁瘡之類,謂之濕脚氣」。

 ◉『素問』生氣通天論(03):「因於濕,首如裹。濕熱不攘,大筋緛短,小筋弛長,緛短為拘,弛長為痿」。


○筋脉踡縮攣痛枯細不腫曰乾脚氣

  【訓み下し】

○筋脈 踡縮攣痛して,枯れ細く腫れず,乾脚氣と曰う。

  【注釋】

 ○踡縮:蜷縮。蜷曲不伸貌。彎曲收縮。

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「不腫者,名乾脚氣。乾即熱也,筋脈踡縮攣痛、枯細不腫,謂之乾脚氣」。


○脚氣属血虗濕熱

  【訓み下し】

○脚氣 血虛濕熱に屬す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「脚氣腫屬濕熱者,宜徹其邪也。……脚氣熱痛如火燎者,此濕熱盛也。……治兩足濕痹疼痛,或如火燎,從足胕熱起,漸至腹胯,或麻痹痿軟,皆是濕熱為病。……脚氣屬血虛濕熱者,宜除濕潤燥也」。


○脚氣焮熱紅腫痛風熱也

  【訓み下し】

○脚氣 焮熱(すいねつ)紅(あか)く腫れ痛み,風熱なり。

  【注釋】

 ○焮:火氣。炙、燒。/音は「キン コン」。「スイ」という音は,「炊」字からの類推か。

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「脚氣焮熱紅腫痛者,此風熱也」。


○脚氣兩脚酸疼属寒濕

  【訓み下し】

○脚氣 兩脚酸(しび)れ疼み,寒濕に屬す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脚氣:「脚氣屬虛寒濕者,宜溫下元也。……二十四味飛步散 治下元虛損,脚膝酸軟疼痛,併並寒濕風氣,麻木不仁,及打傷跌損,行步艱辛」。


○楊太受曰脚氣爲壅疾治以宣通使開壅盛者以砭出惡血而去重勢經曰畜則腫砭射之也

  【訓み下し】

○楊太受が曰わく,「脚氣は壅疾と爲す。治(ぢ)するに宣通を以てす。壅を開かしめ,盛んなる者は,砭を以て惡血(おけつ)を出だす,重勢(ちようせい)を去る。經(きょう)に曰わく,〈畜(たくお)うる則(とき)は腫れ,砭にて之を射す〉」。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』引『玉機微義』脚氣〔卷23・脚氣門・論脚氣宜砭刺〕:「楊太受云:脚氣是為壅疾,治當以宣通之劑,使氣不能成壅也。壅既成而盛者,砭惡血而去其重勢。經曰:畜則腫熱,砭射之也,後以藥治之」。

 ◉岡田昌春等『脚氣概論』(『皇漢醫學叢書』第八冊)論脚氣異名:『千金方』曰:「黃帝云緩風濕痹是也」。『外臺』引蘇長史論曰:「晉宋以前,名為緩風。古來無脚氣名,後以病從脚起,初發因腫滿,故名脚氣也」。『醫說』曰:「脚氣古謂之緩風,又謂之厥者,是古今之異名也」。楊大受曰:「古無脚氣,『內經』名厥。兩漢名緩風,宋齊謂脚氣」。張景岳曰:「脚氣之說,古所無也。自晉蘇敬始有此名。然其腫痛麻頑,即經之所謂痹也。其縱衍緩不收,即經所謂痿也。其甚而上衝,即經之所謂厥也」。


○有風寒濕者衝陽[足跗上五寸去陷谷三寸骨間動脉]公孫[足大指本節後一寸內踝之前]三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○風寒濕有る者は,衝陽[足の跗(こう)の上(かみ)五寸,陷谷を去ること三寸,骨の間,動脈]・公孫[足の大指の本節(もとふし)の後(あと)一寸,內踝(うちくるぶし)の前]・三里[膝の下三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・脚氣:「有濕熱、食積、流注、風濕、寒濕。鍼公孫、衝陽。灸三里」。


○脚氣脚脛濕痺渾身掻痒五指疼懸鐘[足外踝上三寸動脉]飛楊[外踝骨上七寸]深刺

  【訓み下し】

○脚氣,脚(あし)脛(はぎ) 濕痺し,渾身搔痒,五指疼(いた)むに,懸鐘[足の外踝(とくるぶし)の上(かみ)三寸,動脈]・飛楊[外踝(とくるぶし)の骨の上七寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○掻痒:「掻」は「搔」の異体字。「痒」は異体字。「搔癢」:用指甲抓癢處。かゆいところを爪でひっかく。 ○飛楊:飛揚穴。本書では「椎」が総じて「推」に書かれているように,木偏と手偏の書き分けが混乱している。

 ◉『醫學入門』治病要穴・懸鍾〔=懸鐘〕:「主……脚氣,脚脛濕痺,渾身掻痒,五足指疼」。

 ◉『醫學入門』飛揚:「主頭痛目眩,鼻衄,頸項疼,歷節風足指不得屈伸,腰痛腨痛……足痿失履不收」。

 ◉『鍼灸聚英』飛揚:「主痔腫痛,體重,起坐不能,步履不收,脚腨酸腫,戰慄,不能久立久坐,足指不能屈伸……」。


○脚氣膝關痛筋攣不可屈伸曲泉[膝股上內側屈膝橫文頭取之]陽陵泉[膝下一寸䯒之外廉之陷中]風市[膝上七寸]深刺

  【訓み下し】

○脚氣,膝關(しつかん)痛み,筋攣(きんれん),屈(かが)め伸ぶ可からず,曲泉[膝股(もも)の上(うえ),內の側(かたわら),膝を屈(かが)めて橫紋の頭(かしら)に之を取る]・陽陵泉[膝の下(しも)一寸,䯒(はぎ)の外廉(そとかど)の陷中]・風市[膝の上(かみ)七寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「主……膝關痛,筋攣不可屈伸……」。

 ◉『鍼灸聚英』陽陵泉:「主膝伸不得屈,髀樞膝骨冷痺,脚氣,膝股內外廉不仁,偏風半身不遂,脚冷無血色,苦嗌中介然,頭面腫,足筋攣」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「脚膝痛者委中燒,三里曲泉陽陵焦,風市崑崙解谿等,以上七穴最為高。……假如腿痛置骨康,脚氣風市或五壯,或五十壯百壯灸」。


○脚氣膝腫脛痠脚跟筋急痛承山[兌腨腸下分肉間陷中]委中[膕中央約文動脉陷]陽輔[足外踝上四寸輔骨前絕骨端三分]深刺

  【訓み下し】

○脚氣,膝(ひざ)腫れ脛(はぎ)痠(しび)れ,脚(あし)跟(きびす)筋(すじ)急痛に,承山[兌(こ)腨(む)腸(ら)の下(しも),分肉の間の陷中]・委中[膕(おりかがみ)の中央(まんなか),約文の動脈の陷(くぼみ)]・陽輔[足の外踝(とくるぶし)の上(かみ)四寸,輔骨の前,絕骨(ようじほね)の端(はし)三分]深く刺す。

  【注釋】

 ○ようじほね:楊枝骨。

 ◉『鍼灸聚英』承山:「主大便不通,轉筋,痔腫,戰慄不能立,脚氣,膝腫,脛痠脚跟痛,筋急痛,脚氣膝下腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』委中:「主膝痛及拇指……」。

 ◉『鍼灸聚英』陽輔:「主腰溶溶如坐水中,膝下膚腫,筋攣,百節痠疼,實無所知,諸節盡痛,痛無常處,……胸中脇肋髀膝外至絕骨外踝前節痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「膝胻股腫治委中,三里陽輔解谿同,再及承山通五穴」。


○脚脛痠痛不能久立風水膝腫骨髓冷疼上廉[三里下三寸取]然谷[足內踝前大骨下陷者中]深刺

  【訓み下し】

○脚(きゃく)脛(けい)痠(しび)れ痛んで久しく立つこと能わず,風水膝(ひざ)腫れ,骨髓冷え疼(いた)み,上廉[三里の下(しも)三寸に取る]・然谷[足の內踝(うちくるぶし)の前,大骨(おおぼね)の下(しも)の陷者中]深く刺す。

  【注釋】

 ○脚脛:上文では「あしはぎ」と訓んでいた。

 ○風水膝腫:『鍼灸甲乙經』卷8・腎風發風水面胕腫第5:「黃帝問曰:少陰何以主腎?腎何以主水?岐伯對曰:腎者,至陰也,至陰者,盛水也。肺者,太陰也,少陰者,冬脉也,其本在腎,其末在肺,皆積水也。問曰:腎何以聚水而生病?對曰:腎者,胃之關也,關門不利,故聚水而從其類,上下溢於皮膚,故爲胕腫。胕腫者,聚水而生病也。問曰:諸水皆主於腎乎?對曰:腎者,牝藏也,地氣上者,屬於腎而生水液,故曰至陰。勇而勞甚則腎汗出,腎汗出逢於風,内不得入於府藏,外不得越於皮膚,客於玄府,行於皮裏,傳爲胕腫,本之於腎,名曰風水。問曰:有病腎風者,面胕痝然腫(《素問》無腫字)壅,害於言,可刺否?對曰:虛不當刺,不當刺而刺,後五日其氣必至。問曰:其至何如?對曰:至必少氣,時從胷背上至頭,汗出,手熱,口乾苦渴,小便黃,目下腫,腹中鳴,身重難行,月事不來,煩而不能食,食不能正偃,正偃則欬甚,病名曰風水。……風水膝腫,巨虛上廉主之」。

 ◉『鍼灸聚英』巨虛上廉:「主藏氣不足,偏風脚氣,腰腿手足不仁,脚脛痠痛,屈伸難,不能久立,風水膝腫,骨髓冷疼……」。

 ◉『醫學入門』然谷:「主……胻酸胕腫不能履地……」。


○兩膝紅腫疼脾關[膝上伏菟後交分中]隂市[膝上三寸]委中三里[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○兩膝 紅(あか)く腫れ疼(いた)むに,脾關[膝の上(うえ),伏菟の後(あと),交分の中(うち)]隂市[膝上三寸]・委中・三里[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ★『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人によれば,「兩膝」は「兩脚」,「脾關(髀關)」は「膝關」,「菟」は「兔」の誤りであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「兩脚紅腫更疼痛,膝關委中三里攻,再兼陰市通四穴」。

 ◉『鍼灸聚英』髀關:「膝上伏兔後交分中。……主腰痛,足麻木,膝寒不仁,痿痺,股內筋絡急,不屈伸,小腹引喉痛」。

 ◉『鍼灸聚英』膝關:「主風痺,膝內廉痛引臏,不可屈伸,咽喉中痛」。


○穿跟草鞋風丘墟[足外踝下如前陷中骨縱中去臨泣三寸]商丘[足內踝骨下微前陷者中]照海[足內踝下]淺刺

  【訓み下し】

○穿跟草鞋風に,丘墟[足の外踝(とくるぶし)の下(しも),前に如(ゆ)く陷中,骨の縱の中(なか),臨泣を去ること三寸]・商丘[足の內踝(うちくるぶし)の骨の下(しも),微(すこ)し前の陷者中]・照海[足の內踝の下]淺く刺す。

  【注釋】

 ○草鞋風:繞踝風或者草鞋風,下冷水後非常疼痛,難於行走。屬於痺症,痛風一類。/草鞋:用草編成的鞋。わらじ。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「若患穿跟草鞋風,崑崙丘墟商丘紅,並及照海通四穴」。


○脚氣足腨腫脚腕足心疼崑崙[足外踝後跟骨上陷者中]委中[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○脚氣,足腨(たん)腫れ,脚腕足心疼(いた)むに,崑崙[足の外踝の後(あと),跟骨(きびすほね)の上(かみ)の陷者中]・委中[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ○腨(たん):字書によれば,音は「セン」。「たん」は「端」の音からの類推か。小腿肚子。ふくらはぎ。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「脚腕痠者委中臨,再兼一穴是崑崙,足心疼痛取崑崙」。

 ◉『鍼灸聚英』崑崙:「主腰尻脚氣,足腨腫不得履地,鼽衄,膕如結,踝如裂……」。

2024年3月22日金曜日

鍼灸溯洄集 56 

   卷下・一ウラ(728頁)

  (2)痃癖[附臂痛]

  【訓み下し】

  痃癖(けんべき)[附(つけた)り臂痛(へきつう)]

  【注釋】

 ★臂:音,正しくは「ひ」。「辟」の音は「へき」。

 ○痃癖:病名。臍腹偏側或脇肋部時有筋脈攻撐急痛的病症。見『外台秘要』卷十二。因氣血不和,經絡阻滯,食積寒凝所致。『太平聖惠方』卷四十九:「夫痃癖者,本因邪冷之氣積聚而生也。痃者,在腹內近臍左右,各有一條筋脈急痛,大者如臂,次者如指,因氣而成,如弦之狀,名曰痃氣也;癖者,側在兩肋間,有時而僻,故曰癖。夫痃之與癖,名號雖殊,針石湯丸主療無別。此皆陰陽不和,經絡否隔,飲食停滯,不得宣疏,邪冷之氣,搏結不散,故曰痃癖也」。

 ◉『指南』病名彙考・痃癖:「俗に云,うちかたなり。即ち拳を以肩を撃(うつ)ときは快(こころよき)が故に打肩(うちかた)と云。其の疾(やまい)飲食痰氣,項肩脇〔ウナジカタワキ〕腹に滯(とどこほり)て強〔コワク〕急するなり。積聚癥瘕の一類なり。肩のみにかぎらず,其癖〔カタマリ〕の發するに定(さだまる)所なきなり」。

 ◉『病名彙解』痃癖  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/218?ln=ja

  ○うちかた:急に肩が充血してひどく痛み、人事不省となる病気。早打ち肩。痃癖(けんぺき)。

 ★以下の説明文は,著者によるか。


心氣勞役而氣欝或爲辛勞氣血凝滯而肩胛腫

痛輕易難施鍼刺最可謹口受在此處欲行針先

以手按摩而使氣血流行可用針必深不可刺妙

  卷下・二オモテ(729頁)

手者針伏而入皮肉間或以𨥧針出血氣血流通

爲得歧伯曰以砭石取痛痺是也猶有口受

  【訓み下し】

心氣 勞役して氣欝し,或いは辛勞を爲し,氣血 凝滯して,肩胛 腫れ痛み,輕易(かろがろ)しく鍼刺を施し難し。最も謹(つつし)む可し。口受(くじゅ) 此の處(ところ)に在り。針を行なわんと欲(おも)わば,先ず手を以て按(な)で摩(さす)り,氣血をして流行せしめ,針を用ゆ可し。必ず深く刺す可からず。

  卷下・二オモテ(729頁)

妙手(じょうず)は,針を伏せて皮肉の間(あいだ)へ入れ,或いは𨥧針を以て血を出だし,氣血 流通(るつう)して得(え)爲(た)りとす。歧伯の曰わく「砭石を以て痛痺を取る」,是れなり。猶お口受(くじゅ)有り。

  【注釋】

 ○心氣:廣義泛指心的功能活動,狹義指心臟推動血液循環的功能。指心的精氣。 ○勞役:出勞力以供役使。勞苦。 ○氣欝:心情鬱悶。氣機鬱結,多指肝氣鬱結。通常與情志刺激、氣血失調有關。主要症狀有胸悶脅痛、急躁易怒、食欲不振、月經不調、脈搏沉濇等。『諸病源候論•氣病諸候•結氣候』指出:「結氣病者,憂思所生也。心有所存,神有所止,氣留而不行,故結於內」。 ○辛勞:辛苦勞累。 ○肩胛:肩膀[shoulder]。肩胛骨的簡稱,位於肩膀之背側部位。医学指肩膀的後部。[scapulo] ○口受:從口授中獲得。相手の人の口から直接に教えを受けること。口授を受けること。

  卷下・二オモテ(729頁)

 ○𨥧:「砭」の異体字。 ○歧伯曰以砭石取痛痺:『靈樞』九鍼十二原:「歧伯答曰:……毫鍼者,尖如蚊虻喙,靜以徐往,微以久留之而養,以取痛痺」。 


○肩背并和肩膊疼曲池[肘之外橫紋頭]合谷[手大指之次指歧骨之間陷中]淺刺未愈尺澤[肘中約紋上動脉中]三間[食指本節後內側陷]深刺

  【訓み下し】

○肩背 幷(あわ)せ和(か)し,肩(かた)膊(かたさき)疼(いた)むに,曲池[肘(ちゅう)の外(そと),橫紋の頭(かしら)]・合谷[手の大指の次の指,歧骨(ぎこつ)の間の陷中]淺く刺し,未だ愈えずんば,尺澤[肘(うで)の中(うち),約紋の上(かみ),動脈の中(うち)]・三間[食指本節(もとふし)の後(あと),內の側(かたわら)の陷(くぼみ)]深く刺す。

  【注釋】

 ○肩背并和肩膊疼:「肩背幷(なら)びに肩膊和(と)疼むに」と訓むとわかりやすいか。/和:與、跟。並列関係をあらわす連詞(接続詞)であろう。

 ○肩膊:肩膀,人頸下臂上的部分。/膊:身體肩以下手腕以上的部位。近肩部分稱為「上膊」,近手部分稱為「下膊」。/かたさき:【肩先】肩の上部。肩口(かたぐち)。/shoulder:《解剖》〔人体の〕肩関節領域◆首の付け根から肩関節までの領域ではない。

 ◉『鍼灸聚英』雜病十一穴歌:「肩背并和肩膊疼,曲池合谷七分深,未愈尺澤加一寸,更於三間次第行,各入七分於穴內」。


○臂痛者因風痰寒濕橫行經絡肩髃[肩端举手取之也]曲池[穴處出前]淺刺

  【訓み下し】

○臂(ひじ)の痛みは,風痰寒濕 經絡を橫行するに因る。肩髃[肩の端,手を舉(あ)げて之を取る]・曲池[穴處 前に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

 ○橫行:不循正道而行。廣行,遍行,布滿各處。猶言縱橫馳騁。悪事がしきりに行われる。ほしいままに振る舞う。 ○举:「挙・舉・擧」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・臂痛:「臂痛者,因濕痰橫行經絡也。……臂痛者,因風寒濕所搏也。或睡後,手在被外,為寒邪所襲,遂令臂痛,及乳婦以臂枕兒,而傷於風寒而致臂痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・肩臂痛:「痰濕為主。灸肩髃、曲池」。

 ◉『鍼灸聚英』肩髃:「主……肩臂疼痛,臂無力,手不可向頭,攣急……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲池:「主……臂膊疼痛,筋緩捉物不得,挽弓不開,屈伸難,風痹,肘細無力……」。


○臂痛難舉曲池尺澤[肘中約紋中央]三里[曲下二寸]少海[肘大骨去肘端五分陷中]淺刺

  【訓み下し】

○臂(うで)痛み舉げ難きに,曲池・尺澤[肘(うで)中(なか)約紋の中央(まんなか)]・三里[曲下二寸]・少海[肘の大骨,肘(うで)の端を去ること五分陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ★難舉:添え仮名にしたがって訓めば「舉ゲニ難キ」となるが,意味に合わせて変更した。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「手臂痛難舉曲池,須兼尺澤與肩髃,三里少海太淵等……」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「(一名手三里)曲池下二寸」。

 ◉『鍼灸聚英』少海:「肘內廉節後,大骨外,去肘端五分。屈肘向頭得之」。


○臂內廉痛神門[掌後銳骨端陷者中]大淵[寸口之中]淺刺

  【訓み下し】

○臂(うで)の內廉(うちかど)痛むに,神門[掌後(しょうご),銳骨(とがりほね)の端の陷者中]・大淵[寸口の中(うち)]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「臂寒曲澤與神門,臂內廉痛太淵焚」。


○手腕無力列鈌[去腕側上一寸五分]淺刺

  【訓み下し】

○手(て)腕(わん) 力無く,列缺[腕を去る側(かたわら)の上(かみ)一寸五分]淺く刺す。

  【注釋】

 ★上文の訓:「腕(わん)の側(かたわら)の上(うえ)を去る一寸五分」。

 ○鈌:「缺」の異体字(厳密には「金」偏ではないが)。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「手腕無力列缺中」。


○肘臂濡痛通里[腕後一寸陷者中]曲池手三里[穴處出上]淺刺

  【訓み下し】

○肘(うで)臂(ひじ)濡痛(なんつう),通里[腕後一寸の陷者中]曲池・手三里[穴處 上に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

 ★濡:添え仮名「ナン」。「なん」と訓むときは「軟」に通ずる(濡脈)。ただしここでは「臑」の誤字であろう。

 ◉『鍼灸聚英』通里:「主……肘臂臑痛」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「肘臂痛:肩髃 曲池 通里 手三里」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「肘臂痛者肩髃攻,曲池通里手三里,四穴能除肘臂疼」。


  卷下・二ウラ(730頁)

○肘臂手指難屈曲池三里[穴處出上]外關[腕後二寸兩筯間陽池上一寸]深刺

  【訓み下し】

○肘(ひじ)臂(うで)手(ゆ)指(び)屈(かが)め難く,曲池・三里[穴處 上に出づ]・外關[腕(わん)後二寸,兩筋(きん)の間,陽池の上(かみ)一寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○筯:「筋」の誤字。「筯」は「箸(はし)」の異体字。以下,「筋」字で翻字する。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「肘臂手指難屈憂,曲池三里外關等」。


○手臂麻木天井[肘外大骨後肘一寸輔骨上兩筋刄骨【金+虗】中屈肘拱胸取]支溝[腕後臂外三寸兩骨間陷者中]外關[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○手(て)臂(ひじ)麻木(まもく)には,天井[肘(ひじ)の外(ほか),大骨の後ろ,肘(ちゆう)【上】一寸,輔骨の上(うえ),兩筋の叉(さ)骨の罅(すきま)の中(うち),肘(うで)を屈(かが)め胸を拱(こまぬ)き取る]・支溝[腕後,臂(うで)の外三寸,兩骨の間の陷者中]・外關[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ○肘一寸:『鍼灸聚英』によれば,「肘上一寸」の誤り。 ○刄:添え仮名「さ」。『鍼灸聚英』にしたがい,「叉」の誤字と判断した。 ○【金+虗】:添え仮名「すきま」。『康熙字典』金部:「鏬,〈罅〉字之訛」。空隙、隙縫。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「手臂麻木天井宜,外關支溝與曲池……」。

 ◉『鍼灸聚英』天井:「肘外大骨後,肘上一寸,輔骨上兩筋叉骨罅中。屈肘拱胸取之。甄權云:曲肘後一寸。叉手按膝頭,取之兩筋骨罅中」。


○風痺手攣不擧尺澤曲池合谷[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○風痺は手攣(ひきつ)り舉(あ)がらず,尺澤・曲池・合谷[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ○風痹:病名。以疼痛遊走不定為特徵痹證。見『靈樞』壽天剛柔。又名行痹、筋痹。『素問』痹論:「風寒濕三氣雜至,合而為痹也。其風氣勝者為行痹」。

 ◉『病名彙解』風痺:「中風四種の一つ也。○『病源』に云,〈病 陽にあるを風と云,陰にあるを痺と云,陰陽ともにあるを風痺と云り〉」。/『諸病源候論』卷1・風病諸候・風痹候:「痹者,風寒濕三氣雜至,合而成痹。其狀:肌肉頑厚,或疼痛。由人體虛,腠理開,故受風邪也。病在陽曰風,在陰曰痹;陰陽俱病,曰風痹」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「風痺手攣不舉證,尺澤曲池合谷應」。


○手指拘攣并筋緊曲池陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]深刺

  【訓み下し】

○手指(てゆび)拘攣幷(なら)びに筋(すじ)緊(つ)り,曲池・陽谷[手の外の側(かたわら),腕(わん)の中(なか),銳(とがり)骨の下の陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『指南』病名彙考・拘攣:「攣は手足曲(かがみ)て伸びざる也。『字彙』に,拘攣は係(けい)〔ツナグ〕也。手足拘攣(かうりかがまり)て係〔ツナグ〕累したるが如く用(はたらか)ざる也」。/かうり:こおる。固まる。/かがまる:背・腰などが折れ曲がった状態になる。 寒さでかじかむ。/係累:束縛,拘縛,捆綁。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「手指拘攣并筋緊,曲池陽谷合谷同」。


○肩膊煩疼肩井[肩上陷中]肩髃曲池淺刺

  【訓み下し】

○肩(けん)膊(ばく)煩疼に,肩井[肩の上の陷中]・肩髃・曲池,淺く刺す。

  【注釋】

 ○煩疼:煩熱疼痛。『傷寒論』辨太陽病脈證幷治:「傷寒六七日,發熱,微惡寒,支節煩疼」。わずらわしく疼くような痛み。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「肩膊煩疼治肩髃,兼帶肩井與曲池」。


○手熱肘臂攣痛脇腋腫曲澤[肘內廉下陷中屈肘得之]間使[掌後三寸兩筋間陷者中]太陵[掌後骨下兩筋間陷者中]小海[肘內廉節後大骨內去肘端五分屈肘向頭得之]深刺

  【訓み下し】

○手(て)熱し,肘(ひじ)臂(うで)攣痛,脇(きよう)腋(えき)腫れ,曲澤[肘(うで)の內廉(うちかど)の下の陷中,肘(うで)を屈(かが)めて之を得(う)]・間使[掌(じょう)後三寸,兩筋の間の陷者中]・太陵[掌(じょう)後の骨の下,兩筋の間の陷者中]・小海[肘(うで)の內廉(うちかど),節(ふし)の後(あと),大骨の內(うち),肘の端を去ること五分,肘を屈(かが)めて頭(こうべ)に向かえ之を得]深く刺す。

  【注釋】

 ★小海:位置の説明文は,「少海」穴の説明に近い。『鍼灸聚英』は手少陰心経の「少海」を「小海」に誤るので,『聚英』の説明に基づくと思われる。

 ◉『鍼灸聚英』手太陽小腸經・小海:「肘內大骨外,去肘端五分陷中。屈手向頭取之。……主頸頷肩臑肘臂外後廉痛,……肘腋痛腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』手少陰心經・少海〔原文は「小海」に誤る〕:「(一名曲節)肘內廉節後,大骨外,去肘端五分。屈肘向頭得之。……主……肘攣,腋脇下痛,四肢不得舉……」。

 ◉『神應經』午手少陰心經・少海:「在肘內節後,去肘端五分,屈肘取之」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「手熱曲池與內關。曲澤列缺經渠間。太淵中衝少衝等」。

 ◉『鍼灸聚英』間使:「主傷寒結胸。心懸如飢,卒狂,胸中澹澹,惡風寒,嘔沫怵惕,寒中少氣,掌中熱,腋腫肘攣……」。

 ◉『鍼灸聚英』大陵:「主熱病汗不出,手心熱,肘臂攣痛腋腫……」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「手熱:曲池 曲澤 內關 列缺 經渠 太淵 中衝 少衝 勞宮」。「手臂痛不能舉:曲池 尺澤 肩髃 三里 少海 太淵 陽池 陽谿 陽谷 前谷 合谷 液門 外關 腕骨」。「腋痛:少海 間使 少府 陽輔 丘墟 足臨泣 申脈」。「肘攣:尺澤 肩髃 小海 間使 大陵 後谿 魚際」。


○肘臂厥痛難屈伸手不舉指不握孔最[去肘上七寸]淺刺

  【訓み下し】

○肘(ちゆう)臂(へき)厥痛,屈(かが)め伸べ難く,手 舉がらず,指 握られず,孔最[肘上を去る七寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ★肘上:「腕上」の誤りであろう。

 ◉『鍼灸聚英』孔最:「去腕上七寸陷者中。……主熱病汗不出,咳逆,肘臂厥痛,屈伸難,手不及頭,指不握……」。

2024年3月21日木曜日

鍼灸溯洄集 55 

   卷下・一オモテ(727頁)

鍼灸溯洄集下卷

  (1)腰痛

大抵腰痛新久緫属腎虗 

  【訓み下し】

大抵腰の痛み,新久總(すべ)て腎虛に屬す。 

  【注釋】

 ○緫:「總・総」の異体字。 ○属:「屬」におなじ。 

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「大抵腰痛新久總屬腎虛」。


○常常腰痛者腎虗也

  【訓み下し】

○常(つね)常(づね)腰痛む者は,腎虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「常常腰痛者,腎虛也」。


○日輕夜重者瘀血也

  【訓み下し】

○日(ひる)輕(かろ)く夜重きは,瘀血なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「日輕夜重者,瘀血也」。


○遇隂雨久㘴而發者濕也

  【訓み下し】

○隂雨に遇(お)うて久しく坐して發(お)こる者は,濕なり。

  【注釋】

 ○㘴:「坐」の異体字。 ○隂雨:天陰而且下雨。[be overcast and rainy] 天色陰沈,又下著雨。しとしとと降りつづく陰気な雨。空が曇って雨が降ること。

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「遇陰雨久坐而發者,是濕也」。


○腰背重注走串痛者痰也

  【訓み下し】

○腰背(せなか)重く注走串(つらぬ)き痛む者は,痰なり。

  【注釋】

 ○注走:参考。『諸病源候論』卷24・注病諸候・走注候:「注者住也,言其病連滯停住,死又注易傍人也。人體虛,受邪氣,邪氣隨血而行,或淫躍奕皮膚,去來擊痛,遊走無有常所,故名為走注」。

 ○串痛:竄痛〔窜痛〕。竄痛是指疼痛走竄不定的症状。走竄痛。症狀名。指疼痛部位走竄〔擴散〕不定,病人可感覺到疼痛的竄動〔鑽動〕。/中醫學名詞,是指痛處遊走不定,或走竄攻痛。其中胸脇脘腹疼痛而走竄不定的,常稱為竄痛,多因氣滯所致;肢體關節疼痛而遊走不定的,常稱為遊走痛,多見於風濕痹病。

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「腰背重注走串痛者,是痰也」。

 ◉岡本一抱『萬病回春指南』病名彙考・串痛:「言心は串(くしさす)が如くに痛なり」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/376


○挫閃腰疼脇肋疼尺澤[肘中約紋上動脉中]曲池[肘外輔骨屈肘曲中]三隂交[踝上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○挫閃腰(こし)疼(いた)み脇(わき)肋(あばら)疼(いた)むに,尺澤[肘(おりかがみ)の中(うち),約紋の上(うえ),動脈の中]・曲池[肘(ちゅう)の外(ほか)輔骨(かまちほね),肘(うで)を屈(かが)めて曲がる中(うち)]・三隂交[踝上三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○挫閃:出『世醫效效方』卷三。其證如『傷科匯纂』卷九所述:「挫閃者,非跌非打之傷,乃舉重勞力所致也。或挫腰瘀痛,不能轉側;或手足拗閃,骨竅扭出,其傷雖屬尋常,若不及時醫治,失於謂理,非成痼疾,即為久患也」。治宜施行針灸、推拿為佳。/閃挫,閃傷和挫傷的合稱。軀幹因突然旋轉或屈伸,使筋膜、韌帶或肌腱等受急驟的牽拉而引起的損傷,稱為「閃傷」,它屬扭傷的範圍,常見於腰部。體表受鈍器直接撞擊而致肌肉等軟組織損傷,稱為「挫傷」。

 ◉参考:『病名彙解』・閃挫:「うちひしぎたがひくぢくことなり。閃は躱避〔サケサクル〕なり。挫は,摧〔クダク〕なり,折〔ヲル〕なり」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/376

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「挫閃腰疼脇肋疼,尺澤曲池合谷穴,三陰交穴與陰陵,行間三里手三里」。

 ◉『鍼灸聚英』曲池:「肘外輔骨,屈肘兩骨之中,以手拱胸取之」。


○腰疼難動腰疼難動風市[膝上七寸]委中[膝膕中英]行間[足大指縫間動脉應手中]深刺

  【訓み下し】

○腰疼(いた)んで動き難き,風市(ふうじ)[膝の上(かみ)七寸]・委中[膝の膕(おりかがみ)の中英(まんなか)]・行間[足の大指の縫間(ぬいめ)の動脈,手に應ず中(うち)]深く刺す。

  【注釋】

 ★中英:おそらく「中央」の誤字。 ★應手中:おそらく「應手陷中」の誤り。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「腰疼難動風市攻,再兼委中行間穴,三穴治之誠有功」。

 ◉『鍼灸聚英』委中:「膕中央約紋動脈陷中」。

 ◉『鍼灸聚英』行間:「足大指縫間。動脈應手陷中」。


○腰脊強痛腰俞[二十一之節下間中]膀胱俞[十九推下去脊中各二寸]委中深刺

  【訓み下し】

○腰脊(せなか)強(こわ)ばり痛むに,腰俞[二十一の節(ふし)下(した)間中(くぼみ)]・膀胱の俞[十九の推下(した),脊中(せぼね)を去ること各二寸]・委中,深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「腰脊強痛治腰俞,委中湧泉小腸俞,膀胱俞穴宜兼治」。


○腰脚疼者環跳[髀樞之中側臥取之]深刺

  【訓み下し】

○腰脚(あし)疼(いた)む者は,環跳[髀樞の中の側,臥て之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ★臥て:「ふして」か,「がして」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「腰脚痛者環跳宜」。


  卷下・一ウラ(728頁)

○自背引腰疼太冲[足大指本節後二寸]太白[足大指內側內踝前]淺刺

  【訓み下し】

○背(せなか)自(よ)り腰に引いて疼(いた)むに,太冲[足の大指の本節(もとふし)〔の〕後ろ二寸]・太白[足の大指の內(うち)の側(かたわら)內踝(うちくるぶし)の前]淺く刺す。

  【注釋】

 ○太冲:太衝。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「太衝太白引腰痊」。


○腰尻引痛崑崙[足外踝後跟骨上陷者中]承山[兌腨腸下分肉間陷者中]陽輔[足外踝之上四寸輔骨前]

  【訓み下し】

○腰(こし)尻(しり)引き痛みに,崑崙[足の外踝(とくるぶし)の後(あと),跟(きびす)骨(ほね)の上(うえ)の陷者(くぼみ)中]・承山[兌腨(こむら)の腸下(しも),分肉間(あいだ)の陷者中(くぼみ)]・陽輔[足の外踝(とくるぶし)の上(うえ)四寸,輔骨(かまちほね)の前]

  【注釋】

 ★陷者(くぼみ)中:添え仮名の「クボミ」は,「陷者中」全体の訓かも知れない。次の文の丘墟の部位「陷中」に「クボミ」とある。

 ◉『鍼灸聚英』崑崙:「主腰尻脚氣,足腨腫不得履地,鼽衄,膕如結,踝如裂,頭痛肩背拘急,咳喘滿,腰脊內引痛……」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「腰痛:肩井 環跳 陰市 三里 委中 承山 陽輔 崑崙」。


○髀樞膝骨冷痛陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷]丘墟[足外踝下如前陷中]深刺

  【訓み下し】

○髀樞膝(ひざ)骨冷え痛むに,陽陵泉[膝の下(しも)一寸䯒(わき)の外廉(そとかど)の陷(くぼみ)]・丘墟[足の外踝(とくるぶし)の下(しも),前の如くの陷中(くぼみ)]深く刺す。

  【注釋】

 ★「如前」は,脇痛(卷中・二十二ウラ/718頁)の丘墟穴と同じく「前に如(ゆ)く」と訓むべきであろう。

 ○髀樞: 即股骨大轉子的部位,位於股部外側的最上方,股骨向外方項著隆起部分。指骨盆外方中央的髖臼的部位,又名「機」。髀樞即髀厭也,當環跳穴之分,謂之樞者,以楗骨轉動,如戶之樞也。

 ◉『鍼灸聚英』陽陵泉:「主膝伸不得屈,髀樞膝骨冷痹……」。

 ◉『鍼灸聚英』丘墟:「主胸脇滿痛不得息,久瘧振寒,腋下腫,痿厥,坐不能起,髀樞中痛……」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「髀樞痛:環跳 陽陵 丘墟」。


○志室[十四推下相去脊中各三寸半]曲泉[膝股內側屈膝橫文頭取之]深刺

  【訓み下し】

○志室[十四推の下(した),脊中(せぼね)を相去ること各三寸半]・曲泉[膝股(もも)の內の側(かたわら),膝を屈(かが)め橫紋の頭(かしら)に之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ★冒頭に,症状を脱する?

 ◉『鍼灸聚英』志室:「主陰腫陰痛,背痛腰脊強直,俯仰不得……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「主㿉疝,陰股痛,小便難,腹脇支滿,癃閉,少氣,泄利,四肢不舉,實則身目眩痛,汗不出,目䀮䀮,膝關痛,筋攣不可屈伸,發狂,衄血下血,喘呼,小腹痛引咽喉,房勞失精,身體極痛,泄水下痢膿血,陰腫,陰莖痛,䯒腫,膝脛冷疼,女子血瘕,按之如湯浸股內,小腹腫,陰挺出,陰癢」。

2024年3月20日水曜日

鍼灸溯洄集 54

   下卷目錄・一オモテ(725頁)

鍼灸溯洄集下卷目錄

  〔()付き番号は保寳彌一郎氏による。現在と発音が異なるもの,字体の異なるものが複数あるが,【訓み下し】と【注釋】は省略する。原本を参照されたい。〕

  https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1103903/1/9

  https://da.library.ryukoku.ac.jp/view/160152/3


(1)腰痛 (2)痃癖[附臂痛]

(3)脚氣 (4)頭痛

(5)眩暈 (6)眼目

(7)耳疾 (8)鼻疾  (9)口舌 (10)牙齒

(11)喉痺 (12)積聚

(13)疝氣 (14)脹滿 (15)水腫 (16)淋病

(17)消渇 (18)遺精

(19)尿濁 (20)吐血[附衂血咳血唾血]

  下卷目錄・一ウラ(726頁)

(21)下血[附溺血] (22)痔漏

(23)脫肛      (24)秘結

(25)健忘[附征忡] (26)癲癇[附狂症]

(27)汗       (28)癭瘤[附結核瘰癧]

(29)調經[附帶下] (30)姙娠[附臨產]

(31)產後      (32)急驚[附慢驚癇症]

(33)疳癖      (34)瘡瘍


鍼灸溯洄集下卷目錄終

2024年3月19日火曜日

鍼灸溯洄集 53

   卷中・二十二オモテ(719頁)

  (20)心痛[附胃脘痛]

   心痛[附(つけた)り:胃脘痛]


心痛初起者胃中有寒也

  【訓み下し】

心(むね)痛み初め起こる者は,胃中に寒有るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・心痛[即胃脘痛]:「心痛初起者,胃中有寒也」。


○心痛稍久者胃中有欝熱也

  【訓み下し】

○心(むね)痛み稍(やや)久しき者は,胃中に欝熱有るなり。

  【注釋】

 ○欝:「鬱」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・心痛:「心痛稍久者,胃中有鬱熱也」。


○心痛素食熱物者死血留胃口也

  【訓み下し】

○心(むね)痛み,素(もと) 熱き物を食する者は,死血 胃口に留(とど)まるなり。

  【注釋】

 ★素:『萬病回春』の「因素喜」を省略したのであろうが,わかりづらい。

 ◉『萬病回春』卷5・心痛:「心痛因素喜食熱物者,死血留於胃口也」。


○卒心疼不可忍灸足大指次指內紋中各一壯

  【訓み下し】

○卒(にわ)かに心(むね)疼み忍ぶ可からず,足の大指(おゆび)の次の指の內(うち)の紋の中(うち),各々一壯灸す。

  【注釋】

 ○おゆび:親ゆび。おおゆび。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・心脾胃:「卒心疼兮不可忍,吐冷酸水難服藥,此患灸足最為良,得效最速不虛謔,大指次指內紋中,各一壯炷如小麥」。


○心痛有風寒氣血食積熱太谿[足內踝後跟骨上動脉陷者中]尺澤[肘中約紋上動脉中]太白[足大指內側內踝前核骨下陷者中]淺建里[臍之上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○心(しん)痛(つう)に風寒氣血食積(しやく)熱有る,太谿[足の內踝(うちくるぶし)の後(あと),跟(きびす)骨の上(うえ),動脈の陷者中]・尺澤[肘(て)の中(おりかがみ),約紋の上(うえ),動脈の中]・太白[足の大指(ゆび)の內の側(かたわら),內踝(うちくるぶし)の前(まえ),核骨(おゆびのくるぶし)の下(しも)の陷者中]淺く,建里[臍の上(かみ)三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ★下(しも):原文の添え仮名「モモ」。「シモ」の誤りであろう。

 ★建里は,おそらく「深く刺す」。可能性としては,建里の上にある「淺」字が衍文とも考えられる。

 ◉『鍼灸聚英』雑病・心痛:「有風寒、氣血虛、食積熱。鍼太谿、然谷、尺澤、行間、建里、大都、太白、中脘、神門、湧泉」。


○心痛色蒼蒼如死狀終日不得息如錐然谷[足內踝前起大骨下陷中]大都[足大指本節後內側陷中]淺行間[足大指縫間動脉應手陷者中]中脘[臍上四寸]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)痛み色蒼蒼(あおあお)として死する狀(かたち)の如く,終日(ひめもす)息すること〔を〕得ず,錐(きり)に〔て〕さ〔=刺〕すが如く,然谷[足の內踝(うちくるぶし)の前,起こる大骨(ほね)の下の陷中]・大都[足の大指(ゆび)の本節(もとふし)の後(あと)內の側(かたわら)の陷中]淺く,行間[足の大指(ゆび)の縫間(ぬいめ)の動脈,手に應ず陷者中]中脘[臍の上(かみ)四寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○ひめもす:「ひねもす」に同じ。朝から晩まで続くさま。一日中。

 ○錐:添え仮名は「キリニサスカニテ」に見える。「錐ニ刺す」は不自然である。「ニ」は「ヲ」の誤字の可能性もある。また末尾の「ニテ」が不審である。変則で「錐ヲさすが如くニテ」と読むのかもしれない。ただ然谷の主治は「心痛如錐刺……」であるので「刺」字を誤脱した可能性が高いと思う。『鍼灸聚英』然谷の添え仮名にしたがい,「錐にて刺すが如く」というのが,著者の本来の意図であったと思う。

 ○大都:太谿穴の主治には「心痛如錐刺」とあるので,「太谿」の誤りの可能性がある。太衝穴の主治には「心痛,蒼然如死狀,終日不得息」とあるので,「太衝」の誤りの可能性がある。

 ○中脘:中封穴の主治には「色蒼蒼」とあるので,中封穴の誤りかも知れない。

 ◉『鍼灸聚英』然谷:「主……心痛如錐刺墜墮……」。

 ◉『鍼灸聚英』大都:「主熱病汗不出,不得臥,身重骨疼,傷寒手足逆冷,腹滿善嘔,煩熱悶亂,吐逆,目眩,腰痛不可俯仰,繞踝風,胃心痛,腹脹胸滿,心蛔痛,小兒客忤」。

 ◉『鍼灸聚英』太谿:「主久瘧咳逆,心痛如錐刺……」。

 ◉『鍼灸聚英』行間:「主……肝心痛,色蒼蒼如死狀,終日不得息……」。

 ◉『鍼灸聚英』太衝:「主心痛……肝心痛,蒼然如死狀,終日不得息……」。

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主五膈,喘息不止,腹暴脹,中惡,脾疼,飲食不進,翻胃,赤白痢,寒癖,氣心疼,伏梁,心下如覆杯,心膨脹,面色痿黃,天行傷寒,熱不已,溫瘧,先腹痛先瀉,霍亂,泄出不知,食飲不化,心痛,身寒,不可俯仰,氣發噎,東垣曰:氣在於腸胃者,取之足太陰、陽明,不下,取三里、章門、中脘,又曰:胃虛而致太陰無所稟者,於足陽明募穴中導引之」。

 ◉『鍼灸聚英』中封:「主……色蒼蒼……」。


○心痛胸滿厥陰俞[四推下相去脊骨各二寸]鬲俞[七推下相去脊中各二寸]淺京骨[足之外側大骨下赤白間陷中]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)痛み胸滿ち,厥陰(けっちん)の俞[四推の下,脊骨を相い去ること各二寸]・鬲の俞[七推の下,脊中を相い去ること各二寸]淺く,京骨[足の外の側(かたわら),大骨の下,赤白(しゃくびゃく)の間(あいだ),陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』厥陰俞:「主咳逆,牙痛心痛,胸滿嘔吐,留結煩悶」。

 ◉『鍼灸聚英』鬲俞:「主心痛周痹,吐食翻胃,骨蒸,四肢怠惰,嗜臥,痃癖,咳逆,嘔吐,鬲胃寒痰,食飲不下,熱病汗不出,身重常溫,不能食,食則心痛,身痛臚脹,脇腹滿,自汗盜汗」。

 ◉『鍼灸聚英』京骨:「主頭痛如破,腰痛不可屈伸,身後痛身側痛,目內眥赤爛,白翳俠內眥起,目反白,目眩,發瘧寒熱,喜驚,不欲食,筋攣,足䯒痛,髀樞痛,頸項強,腰背不可俛仰,傴僂,鼻鼽不止,心痛」。


○卒心痛湧泉[足心陷中]淺刺

  【訓み下し】

○卒(にわ)かに心(むね)痛むに,湧(ゆ)泉(せん)[足心(つちふまず)の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』湧泉:「主……煩心心痛……,卒心痛……」。


○心痛善驚身熱煩渇口乾逆氣心下澹澹曲澤[肘內廉下陷中屈肘得之]郄門[掌後去腕五寸]淺刺

  【訓み下し】

○心(むね)痛んで善(この)んで驚き,身(み)熱し,煩渇,口乾き,逆氣し,心下澹澹(さわさわ)とするに,曲澤[肘(うで)の內廉(うちかど)の下の陷中,肘(うで)を屈(かが)めて之を得(う)]・郄門[掌後,腕を去る五寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○澹澹:蕩漾貌。水搖蕩的樣子。/添え仮名「サワサワ」。サワサワ:落ち着かないさま。そわそわ。/ザワザワ:大勢の人が集まって騒がしいさま。木の葉などが触れ合って立てる音。

 ◉『鍼灸聚英』曲澤:「主心痛善驚,身熱煩渴,口乾,逆氣嘔涎血,心下澹澹……」。

 ◉『鍼灸聚英』郄門:「主嘔血衄血,心痛嘔噦,驚恐畏人,神氣不足」。


○心痛伏梁奔豚上脘[臍上五寸]深刺

  【訓み下し】

○心痛,伏梁,奔豚,上脘[臍の上五寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』上脘:「主……奔豚,伏梁,三蟲,卒心痛……」。


○心腹脹滿胃脘痛太淵[掌後陷中]魚際[大指本節後內側陷者中]淺三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)腹(はら)脹滿し,胃脘痛するに,太淵[掌後の陷中]・魚際[大指(ゆび)の本節(もとふし)の後(あと),內の側(かたわら)の陷者中]淺く,三里[膝の下(しも)三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「心痛食不化中脘,胃脘痛兮治太淵,魚際三里兩乳下,一寸三十壯為便」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「膝下三寸……。主胃中寒,心腹脹滿……。胃病者,胃脘當心而痛……」。


○心煩胃脘痛解谿[足大指次指直上跗上陷者宛宛中]完骨[耳後入髮際四分]胃俞[十二推下去脊中二寸]淺刺

  【訓み下し】

○心煩胃脘痛,解谿[足の大指(ゆび)の次の指直上,跗(こう)の上(うえ),陷者宛宛たる中(うち)]・完骨[耳の後ろ,髮の際(はえぎわ)に入ること四分]・胃の俞[十二推の下(しも),脊中を去ること二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』心脾胃部:「心煩:神門 陽谿 魚際 腕骨 少商 解谿 公孫 太白 至陰。……胃脘痛:太淵 魚際 三里 兩乳下各一寸(各三十壯)膈俞 胃俞 腎俞(隨年壯)」。

 ◉『鍼灸聚英』解谿:「主風面浮腫,顏黑,厥氣上衝,腹脹,大便下重,瘈驚,膝股胻腫,轉筋目眩,頭痛癲疾,煩心悲泣,霍亂,頭風,面赤目赤,眉攢疼不可忍」。

 ◉『鍼灸聚英』完骨:「主足痿失履不收,牙車急,頰腫,頭面腫,頸項痛,頭風,耳後痛,煩心,小便赤黃,喉痹齒齲,口眼喎斜,癲疾」。

 ◉『鍼灸聚英』胃俞:「主霍亂,胃寒腹脹而鳴,翻胃嘔吐,不嗜食,多食羸瘦,目不明,腹痛,胸脇支滿,脊痛筋攣,小兒羸瘦,不生肌膚,東垣曰:中濕者,治在胃俞」。


○心狂胃脘痛公孫[足大指本節後一寸內踝前陷]三隂交[內踝上三寸中骨下陷]隂陵泉[膝下內側曲膝取之]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)狂わしく胃脘痛,公孫[足の大指(おおゆび)の本節(もとふし)の後(あと)一寸,內踝(うちくるぶし)の前の陷(くぼみ)]・三隂交[內踝(うちくるぶし)の上三寸中骨下陷]・隂陵泉[膝の下(した),內の側(かたわら),膝を曲(かが)めて之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』公孫:「主寒瘧,不嗜食,癇氣,好太息,多寒熱汗出,病至則喜嘔,嘔已乃衰,頭面腫起,煩心狂言……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「煩悶不臥治太淵,公孫隱白陰陵泉,肺俞三陰交六穴,治之何患病不痊」。


鍼灸溯洄集卷中終